『 ゼロ 』
『月面司令部航空隊』掲載話。
映画『永遠のゼロ』を観て、零戦を平和な空で思いっ切り飛ばせたいと思って出来上がった話。この話は同誌掲載話『地球祭』の続きとなっていて、本当はそちらからUPすれば良いのだけれど・・・
なにせ作文も感想文も苦手てで、いつもどうやって回避すべくか努力していたような私が初めて書いた拙い話なもので、UPするのはとても勇気がいるという事情があってですね・・・
話は、ヤマトがイスカンダルからの航海から帰還して1年後。平和になった地球で開催された地球祭(ミスコンテスト、航空隊によるアクロバット飛行展示etc... )での出来ごとの後日談。
2199の女性クルー・岬百合亜、原田真琴など登場するけれど、航空隊の設定はあくまでも、オリジナル ヤマト! なんて勝手放題な設定なのです。
「ライトノベル」にも満たない「フェザー」いや「フライ」ノベル
でもいいんだもん!妄想なんて楽しんだもの勝ち
なんだかお披露目したくなったんだモン。
もしも面白そうって興味を持って下さったなら、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
『 ゼロ 』
抜けるような晴天。白い雲が気持ち良さそうに青空に浮かぶ。そんな爽やかな光景には似つかわしくないような、ふてくされ、うつろな目を車外に向けてシートに身を任せているのは、月面司令部航空隊所属のパイロット、曽我部 玲。
エアカーはメガロポリスを抜け、次第に郊外へと向かって行く。
「玲ちゃん、次のPV(プロモーションビデオ)撮影で終わりだから頑張って!」
と横に座る、岬 百合亜の励ましの言葉も
(はあ~~ 月に帰りたい…)
と、大きなため息とともに耳半分で聞いている。エアカーの車内にいるのは、後席に玲と百合亜。前席に運転手とカメラマンの男性。機材とスタッフを運ぶ、もう一台のエアカーがその後ろに続く。
(何でこんなことに、なっちゃったんだろう…)
事の始まりは、先般の「地球祭」で開催されたミスコンテストであった。玲は、なぜかその審査で観客に大ウケして特別賞を受賞してしまい、それ以来、広報部から活動依頼の打診がひっきりなしに来るようになり、その度
「そんなのまっぴらごめん!」と断り続けていたのだが、
ついに! 『命令』という形で正式に『広報に協力せよ!』との通達が届き、さすがの玲も首を横には振れず、厭々ながら任務を遂行する羽目になってしまったのだった。
月面基地から地球に降り立った途端、インタビューを3本立て続けに受け『くれぐれも愛想良く!』の命令通りに行った結果、疲れ果て、盛大なため息をついて、百合亜になだめられている状況なのだった。
でも!
(ここは!?)
次第に見えてくる懐かしい光景に思わず身を乗り出す玲。着いた先は飛行場。しかも、ひな鳥時代に散々しごかれた懐かしい場所であった。当時、一番世話になった教官が基地司令となっていて、玲の来訪を喜ぶと共に、昔話を持ち出して
「そんな過去の話は、止めて下さい!」と、玲に悲鳴を上げさせるのだった。
簡単な打ち合わせを終え、一行は滑走路(エプロン)へと向かった。
その一角に置かれたそれは、玲の愛機コスモタイガーⅡと比べると、二周りほど小さな機体。流線型のスマートなスタイルのプロペラ機は、洗練されたレトロな雰囲気の中にも精悍さも併せ持つ。
「これは?」
「零式艦上戦闘機 二一型。通称 零戦と呼ばれた機体だ」
「これが、零戦…」
司令の言葉に目を輝かせ喰い入るように見つめる玲。
「圧倒的な格闘戦性能を誇り、かつて空の王者として君臨し、栄光と落日を共に知る名機。
…もう一度、平和な空を飛ばしてやりたいと、基地の有志が復元させものだ」
と語る司令は、ちょっと悪戯っぽい表情になり
「飛んでみるか?」と玲に問う。
「え!?」感慨深く見つめていた玲の瞳が明るく輝く。
「良かったら当時の飛行服に着替えてみる?」と同行のプロデューサーが声を掛けて来る。
目をキラキラさせて大きく頷いた玲は、数分後、颯爽と登場する。零戦にレトロな飛行服がマッチしてノスタルジック感満点。もうそれだけで絵になる光景であった。
整備クルーから操縦のレクチャーを受ける。
機体が違っても飛ぶ原理に大差はなく、月基地に所属している航空隊員にとって、その操縦も造作のないことであった。
やがてエンジン・ランナップを開始し、離陸準備が整う。
クリアフォー テイクオフ!
ふわりと離陸後、いきなり急上昇。大きな宙返りで幾つもの丸を描いてみる。そして、その性能を確かめるように、宙返りの頂点で半ロールを打ち背面になったところで機体を左へと横滑りさせる。フッ と重力が無くなるような浮遊感を暫し楽しむ。まるで、飛行機でダンスを踊っているような軽やかな飛行。翼の先まで喜びに満ち溢れているような機嫌の良さ。
空を自由に舞っていると、後方から鋭いエンジン音が近づいて来た。あっという間に追い抜いて、急上昇をする2機の新鋭機。
「隊長!明くん!!」
「キューピッドいくぞ!曽我部! アロー機よろしく!」
「えええぇぇぇっっ!!」
加藤の突然の通信に面喰らう玲であるが
「ええい!ままよ!」とばかりに力一杯に急上昇!
加藤、山本が2機で描いた大きなハートを、スモークを引きながら、一筋の矢になり射抜く。
その見事な出来栄えに地上では大きな歓声が上がる。
曽我部機は大きくループして急降下。そして地上300フィートで水平飛行に転じる。
風防を開け風を感じる。白いスカーフが軽やかに風になびく。
後方から、加藤、山本の2機が追い付き、新旧の機体が並ぶ。
そのまま、山本からウィンク、加藤は笑顔で追い越して行く。追い越した2機は、じゃれ合うように機体を交差させ、抜けるような青空に飛び去って行った。
青い空の母なる地球はどこまでも美しい。
(この平和な空をいつまでも飛んでいたいな…)
飛行機乗りの喜びを全身に感じながら、玲は飽きることなく飛び続ける …
「あーーーっ どっか行っちゃいましたねぇ… 」
「おおーーーい!いつまで飛んでんだぁ!?」
って呆れ顔で空を見上げる地上のスタッフ達。
そして、その飛行は黄昏時まで、まだ暫く続くのだった。
・・・END
最後まで読んで下さってありがとうございます。
空の青さを感じて頂けると嬉しいです。
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