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2015年2月 2日 (月)

『2199 隼!航空隊』より

    『 この青空を鳥のように 』
                    


どこまでも続く青い空。幾つかの白い雲が、気持ち良さそうに空に浮かぶ。
太陽に照らされながら連なって翔ぶ、真っ白な機体の飛行機が、二つの影を地上に落とす。
プロペラを元気に回しながら力強く進む機体に曳かれ、長い翼を優美に煌めかせた機が続く。二つの機は40M程のワイヤーロープで繋がれている。その後方機で操縦桿を握る沢村の眼は、何かを探しているようにも見える。

「フック外します!」
「了解。いってらっしゃい」

合図と共に、二機を繋いだロープを切り離す。
身軽になった機体は、翼を煌めかせながら風に乗って空を滑る。沢村は、軽くバンクをかけながら、それを探す。
やがて、ふわぁ~っと緩やかに感じるマイナスG。

「つかまえた!」操縦桿を握る手に思わず力が入る。
「小橋、サーマルだ」
ヤマトでの航海を思い浮かべながら、沢村はそっと呼び掛けた…

 

「グライダー?」

沢村が覗き込んだ小橋のタブレットには、その特徴的な長い翼を持つスマートな機体が表示されていた。
イスカンダルを目指して、未知の星間を航海するヤマト。メ2号作戦も航空隊の活躍によって見事、勝利を収め、昼下がりの談話室に、久しぶりのゆったりとした時間が訪れていた。

「グライダーって、音もなく、空を風に乗りながら鳥のように滑空するんだぜ。地球に還って、空の青さを取り戻したら、グライダーで鳥のように翔んでみたいんだ」
目をキラキラさせながら振り向く小橋。
「でも、グライダーってエンジンなしでよく翔べるよな」沢村は率直な疑問を口にする。
「正確には、滑空。落ちながら翔ぶんだ。でも、空の宝物を探し当てればソアリングしながら、いつまでも翔べるし、ジェット機よりも高い高度にまで行けるんだぜ」
「ソアリング? 宝物?」
「トンビって知ってる?鳥が羽ばたかずに、空でくるくると、ずっと旋回してるのって見たことある?」
沢村はまだ地上で暮らしていた頃の情景を「ああ、あれね!」と思い浮かべてみる。
「空の宝物、サーマル=上昇気流のことだけど、トンビはそれを上手く利用しているんだ。グライダーはそれを掴まえてその上に乗るんだ。上昇気流(サーマル)を掴むことを、ソアリングって言うんだよ」
「成程、でもエンジンもないのに、離陸ってどうするんだ?」
「色々方法はあるけれど、飛行機で牽引して空に上がっていく、飛行機曳航が断然良いよなぁ~」
「面白そうじゃん!その時はオレが曳っぱってやるよ。一緒に翔ぼうぜ!」
「よし!約束だぜ」
お互いの拳と拳を合わせてその日を誓う。

そして、ふと、思い出したように沢村が呟く。
「そう言えば…確かシミュレーションにグライダーの操縦ってあったような気がする」
「え!?ほんと!?」
その日以来、ヒマを見つけてはシミュレーションに嵩じる二人であった。

「おまえ、本当に上昇気流(サーマル)見つけるの上手いよな」敵わないよと呟く沢村に、小橋は「好きこそものの上手なれって言うじゃん。大空を独り占めにして鳥のように翔べるなんて、考えただけでわくわくしてくるよ」と笑顔で答えた…


今、あの時のキラキラした小橋は、いない。

航海中、戦闘の度に減っていった仲間達。七色星団の決戦時、12人もの仲間が散った。小橋もその一人だった。格納庫、ロッカー、控室…仲間がいなくなる度に、ガランと空間が広がるようで、淋しさと虚しさが募った。
いくら腕が良くったって、闘いなんて一瞬の間に戦況は目まぐるしく変わる。運、不運だってある。

(あの時、不安がってたよな。何か嫌な予感でもあったのか?)
小橋に問うてみたくもなる。科学的にと言われると証明する事は難しいが、人間の第六感は、かなり鋭いものがある。そんな時は、大方にして精神的に不安定でもある。心に不安があると、注意力が散漫になるし、時として思い掛けない行動に出てしまうこともある。

(有視界戦闘なんて、お互いキツかったよな)
航空隊員は、必ず勝って還る決意で出撃するが、同時にその時の覚悟も、いつだって出来ている。理解は出来ているんだ。
でも、いくらメンタルトレーニングを受けていても悲しいものは悲しいんだと、激しかったあの戦闘を思い出す。心に蓋をして見えなくしても、いつの間にか悲しみは溢れてしまう。心に正直に、泣ける時に泣いた方が良いって誰かが言っていた。逝ってしまった仲間達の想いを背負って、歯を食いしばりながらイスカンダルを目指した航海が、今は懐かしい。

掴まえた上昇気流(サーマル)に乗って、ゆっくり旋回しながら、グライダーは大空へと舞い上がって行く。

「小橋…」

万感の想いを込めて、沢村がその名を呼ぶ。
「おまえと翔びたかったよ」
聞こえるのは、ただ風の音だけ。引き込まれる程の青空に向かって、そっと呟いた。

「いつかまた、大空で会おうな」

《うん。またね》
明るい声が風に乗って聞こえたような気がした。

「小橋?」

包み込まれる優しい気配の中で、空の向こうに小橋の明るい笑顔が見えたような気がした。
長い翼をいっぱいに広げ、グライダーは青い空を独り占めするかのように、いつまでも翔び続けた。
上昇気流(サーマル)に乗って、白い大きな翼の鳥のように…
              

                                      ・・・END

   1

まみさんが、このお話をイメージして、こんなにも素敵な絵を描いて下さいました

航空隊員は、一度出撃すると、己の腕一本に生命をかけて全力で闘うのです。
皆、生きて地球に還って欲しかった。
素敵な笑顔で「青い地球の平和な空を鳥のように自由に飛びたい」と語る二人の夢を叶えて欲しかった。
この気持ちを小橋くんに捧げるとともに、

まみさんに心からの感謝の気持ちを贈りたいと思います。
本当にありがとうございました。

                            akira

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